あなたは1日のうちのどのくらいの時間を会議に使っていますか?
目次
1.今日におけるリーダー像は?
あなたの会社のリーダーを思い浮かべてください。1日のうちどのくらいの時間を会議に使っているでしょうか?実際、私がエンジニアとして、働いていた製造業では工場長、課長クラスは連日会議だらけで、少なくとも1日のうちの半分以上はなんらかの会議に出席していました。しかも、その会議の話題の大半は今日起きている問題に対する処理でした。
一般的に今日のリーダーは「今日の問題」に対処するための会議に時間の70%~90%を費やしています。そのため、将来のために投資する時間がほとんどなくなってしまっているのが現状です。
2.リアクティブ(受身的)とプロアクティブ(先見的)
こうした「今日の問題」に対処している状態のことをリアクティブ(受身的)と呼びます。組織がこのリアクティブモードである場合は、誰もが一生懸命に働き、長時間労働や休日出勤、社内政治への巻き込まれ、電話や問題、会議の数が増加します。更にミスが重なって経費が増加したり、ストレスが溜まって医療費が嵩みます。そして、最終的に社員が離職してしまいます。日本語で「過労死」と言う言葉が海外でも使われるようになってきています。こうしたリアクティブモード下では、廃業へまっしぐらに進んでいく戦略であるとも呼べます。
リアクティブな経営は、トップからの要求と命令が下ることが多いですが、彼らの命令は不明瞭なことが多く、その解決策さえも的外れなことが多いのです。そして、リアクティブの場合は、部下からの質問したりといった質疑応答は全くなく、「分からない」と「できない」がほぼ同義で捉えられています。現場からの具体的な質問がなされないまま物事は進んでいきますので、当然間違った解決策が進んでいくことになります。こうした状況下では議論と妥協が繰り返される一方で、前進する速度は遅くなってしまいます。海外から日本の企業と仕事をすると遅いと言われるのは、こうした要因が背景にあると考えられます。
この状況下を打破するためには、プロアクティブモードに切り替える必要があります。プロアクティブ(先見的)とは、人に時間と資金を投資して、既存の経験と知識を最大限に活用します。それは同時に顧客のニーズをも満たします。そして、失敗から学ぶことによって今後の成功と利益に良い影響を与えます。「魚を一匹与えられば今日一日は生きられる。しかし、魚の釣り方を教えれば一生生きられる」という組織運営が必要となってきます。
リアクティブ型の組織運営では、ミスを減らすために多大な時間と資金が必要となってきます。しかし、プリアクティブ型の組織運営ではミスを減らすためにまず多大な資金を投入します。危機管理の観点から見ると、インシデント(事件・事故)が発生した際の事後対処がリアクティブであり、インシデントを発生しないようにするための予防措置がプロアクティブです。
どちらが良いかは言うまでもなく、リアクティブ型からプロアクティブ型へ切り替えていく必要があります。
3.日本と欧米の違い
私は元々化学プラントでエンジニアをしていましたが、安全に対する考え方にもこのリアクティブとプロアクティブの考え方が適用できます。それは、日本と欧米において、安全の考え方の違いに起因します。
日本では災害の主原因を人に置きがちですが、欧米においては主原因を技術に置きます。なので、日本では人に対する対策が取られ、ヒューマンエラーの対策ばかり先行して走りがちです。更には、運転技術も人の勘や経験、度胸(所謂KKD)に頼りきっている部分が多くあります。それ故、多数の技術を持った職人さんを多数輩出していること等がプラスに働いている面もあり、事故の低減にも貢献してきました。しかし、直近の課題としては、現代において事故の経験が積めないこともあり、若手技術者の育成や伝承が問題となってきています。
日本においてイノベーションが起こりにくいと言われている原因は、技術的な対策にコストを掛けてきていないことが要因の一部です。実際に化学反応の大半は海外で発見されたもので、その技術を導入して日本でも生産しているケースが多いのです。日本では安全は人に起因するので、基本的にはただであるという考え方ですが、欧米では安全はコストが掛かると考えて安全に多額の資金を投入しています。日本では災害が発生してから、対策をしっかりと行うという事後対策となりがちですが、欧米では災害が発生しないように技術的に対策を取るといった事前対策を取っています。
そして、日本では災害の大きい小さい関係なしに災害が発生する度に対策を取って低減に結び付けていますが、欧米では死亡といった重大災害(*1)さえ起こさなければ良いという考え方で対策を取っています。
日本的な考え方が悪いというわけではありません。実際に災害が発生してから対策を取ってきていることで災害率も小さくなってきており、災害の低減にも貢献しています。データで見ると、死亡災害率(*2)が日本で2.1、イギリスで1.3 (2006)で死亡人数こそイギリスより多いけれども、休業4日以上の災害率(*3)では日本2.4, イギリス11.4で、イギリスをも凌ぎます。
しかしながら、人手不足といった現状やAIやロボットの台頭と行った未来に対しては、人に頼ることには限界が生じてきます。まずはコストを掛けてでも技術力で未然に防ぐことできるものは防ぎ、それでも防ぎきれないような残留リスクについてのみ人に頼るといった考え方に方向転換していく必要があるのではないでしょうか。
もう既にお気づきだとは思いますが、日本的な考え方はリアクティブ、欧米的な考え方はプロアクティブと呼んでも差し支えないのではないでしょうか。
【出典】中央労働災害防止協会:「海外の労働安全衛生統計-EU域内、日米労働災害比較改定情報(2006)」
(*1)重大災害とは、一時に3人以上の労働者が業務上死傷または罹病した災害のこと
*2 死亡災害率の単位は10万人率で、日本2.1であれば10万人に2.1人の割合です。
*3 休業4日以上の災害率の単位は1,000人率で、日本2.4であれば1,000人に2.4人の割合です。
4.リアクティブからプロアクティブへ移行するには?
リアクティブからプロアクティブへ移行する為には、まず投資が必要です。「明日の見返りを期待して今日投資する」という考え方を取っていく必要があります。なぜ、リアクティブからプロアクティブへ移行がしないかというと、ただ単にプロアクティブ型に切り替えようとして投資をしていない為です。投資をして将来の時間を買うのです。
投資する内容は現場の能力とスキル向上です。社員の分析力、問題解決力、コミュニケーション能力、チームワーク力の強化等を行い、現場に近い人たちが問題解決や困難な課題を克服することで、自らが考えて行動できる人を育成していきます。そして、プロアクティブへの移行には、困難を理由にリアクティブに戻りたがる誘惑が発生するのでそれを克服しなければいけません。再発する問題の原因を探る時間を部下に与え、行動を最後まで考える時間を取ることです。そうすることで当事者意識を芽生えさせて、自らが主体的に行動できるようにしていきます。
そして、研修では能力を上位から下位に移転します。社員に規則やマニュアルを遵守する方法を教えることも含まれます。
リアクティブからプロアクティブへの移行の成功の鍵は、小規模ではあるけど実質的な効果を生み出す取組からスタートします。小規模プロジェクトを行うことで、移転された能力が活用される場が与えられると共に、その成功こそが自信にも繋がります。こうした小規模プロジェクトが何回も続けて成功すると、いずれ勢いがついていき、勢いが増すと自動的に改善が起こるようになってきます。取組を継続させるためには、反復と勢いの両方が必要となってきます。
あなたは何に対してプロアクティブな考え方を適用しますか?
【参考文献】トニー・ブザンら著、「マインドマップ・リーダーシップ」ー現場主導で組織に革命を起こすー、ダイヤモンド社(2013)